DAncing Einstein 代表 青砥 瑞人② 大人になっても学ぶ力は上がる~カギは学習の習慣化~
目次
大人の学び直しのカギは“モヤモヤ”
みなさんはこうして、大人になっても何かを学ぼうとされていますが、子どものころの学び方とはちょっと違うと感じている方もいるのではないでしょうか。これは実は、脳神経のあり方が、時期によって全く異なるからです。今後の学びに役立つような脳内の営みを、少しお伝えします。
我々の脳には、シナプスと呼ばれる、神経細胞と神経細胞の結び目があります。そのシナプスのレセプターと呼ばれる受容体部分で、情報が行き交っているわけです。このシナプスの数が人の成長過程においてどう変化するのか。視覚聴覚情報に関するシナプスで見てみますと、受精してから数ヶ月はどんどん増殖し、2歳頃には、ピークを迎えます。子どもが「なんで?なんで?」とひっきりなしに聞いてくる好奇心旺盛な時期がちょうどここですが、これは効率的に記憶ができる脳の状態だからなんですね。生き物として理にかなったことをしているわけです。
そのあと、4歳、6歳ごろにはシナプスは減少していきます。これはシナプス形成期の後、我々の脳にシナプスを刈り込んでいく時期があるからです。なぜ刈り込むのか。脳にとっては、使っていない回路を保つこと自体がエネルギーの無駄遣いになります。だから刈り込んでしまおうというシステムが働き、大人になる頃には回路がある程度精査されている状態になるんです。
そこから新たなことを学ぼうとすると、またシナプスを作ったり、神経を伸長・強固にするために、脳は膨大なエネルギーを使います。大人になると学ぶのに時間がかかったり、モヤモヤすることが多いのは、まさに学んでいる証拠というわけです。子どものころより時間は多少かかりますが、大人になってもいくらでも学ぶことはできます。
我々の神経細胞には絶縁体のようなものが巻かれていて、電気的な情報をやり取りしていますが、この絶縁体が太くなればなるほど、電気は漏洩する確率が低くなります。つまり、効率よく信号情報を伝えることができるようになるわけです。学びを繰り返すことで、情報をキャッチするための神経細胞の受容体がどんどんいろんなシナプスの方向に動き、電気信号が行き交う量が増えます。そうして絶縁体も太くなっていくのです。学習するまでにはエネルギーを使いますが、学習を習慣化することで、脳は省エネになるという良さがあります。習慣が大事と言われるのは、脳神経科学的なこの側面が理由としてあるんです。
目指すはドーパミンがDADA漏れしちゃうような学び
我々の記憶を効率よくしてくれる物質が、ドーパミンです。みなさんが何かをするときに、モチベーションというのは大事になってくると思いますが、実はどういう動機で物事に取り組むかによって、分泌される神経伝達物質が異なります。ドーパミンは、簡単にいうと、好きなこと、やりたいことをやっているときに出てくる伝達物質。
やりたくないけどやらなきゃもっとやばい、怖いという状態のときは、アドレナリン(ノルアドレナリン)という物質が出ます。主にドーパミンが出ている状態のときは、好奇心が湧いているとき。よく、子どもに話しかけても目の前のことに夢中で聞こえていない、なんていうときがありますが、これはまさにドーパミンが出ている状態です。こういうとき、脳内ではβエンドルフィンという快楽物質が出ていて、かなりの集中力を発揮でき、気持ちいと感じる状態です。
一方、アドレナリンが出ている時は、コルチゾールという副腎皮質ホルモンが分泌されますが、この状態になり続けると、注意力は散漫になり、ストレスが溜まっていくとされています。僕らは、いかにドーパミン由来でものごとに取り組めるかが重要だと考えています。
子どもも大人の方も、脳の中でドーパミンが溢れているような学び、「ドーパミン(DA)がだだ漏れしちゃう、DAがDADA漏れドリブンの学び」ができる世界を僕は作っていきたいなという風に思っています。脳神経科学には、ここに挙げきれないようなあらゆるナレッジが詰まっていて、これからの教育においても何らかの良いベネフィットを与えてくれるのではないかと思っているので、あらゆる場面で活かされるように成長して行きたいと思います。
文:波多野あずさ
撮影:梅田眞司
ゲスト紹介
青砥 瑞人
日本の高校は中退。米国の大学UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)にて神経科学学部を飛び級卒業。脳神経の奥深さと無限の可能性に惹かれ暇さえあれば医学論文に目を通す脳ヲタク。一方で、教育に特に熱い情熱を持ち、学びの楽しさと教えの尊さを伝えることが生き甲斐。研究者ではなく、研究成果たちを教育現場・ヒトの成長する場にコネクトし、ヒトの学習と教育の発展に人生を捧げる。脳×教育×ITの掛け合わせて世界初のNeuroEdTechという分野を立ち上げ、実際にこの分野で幾つもの特許を取得。ドーパミン(DA)が溢れてワクワクが止まらない新しい教育を創造すべくDAncing Einstein Co.,Ltdを創設し、教育者、学生、企業と垣根を越えてヒトの成長に関わることを楽しんでいる。
HP:https://da-einstein.com/