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コラム

テクノロジーの進化の先、お金のなくなる時代!?ブルー・マーリン・パートナーズ株式会社 代表取締役 山口揚平氏

2017年4月21日(金)待望の「第1回LDCイノベーション連続講座」が開催されました。テーマは「フィンテック・ブロックチェーンなどのテクノロジーの進化の先、お金のなくなる時代?! ~21世紀のお金のリテラシー~」。講師にブルー・マーリン・パートナーズ株式会社 代表取締役 山口 揚平 氏をお招きしました。講演は、お金の根源的な話から未来まで、やがて、人間が生きるとは?という問いまで拡大する、壮大なものとなりました。

歴史からひも解く”お金”とは


皆さんはお金の起源は何?と聞かれたら、なんと答えるでしょうか。多くの人は「物々交換だ」という風に学校で習ってきたと思います。しかし最近では、貸借の記帳から始まったという説が有力で、これがお金の本質を表していると思います。ポリネシアのヤップ島にあるフェイと呼ばれる石が起源と言われていますが、これは部族間の食料などの貸借履歴を刻んだ石です。時間差があっても、いずれ返してくれるという信用に基づいて行われたやりとりが記録されています。こうしたことからも、お金の始まりは記帳、お金の本質は「信用取引・清算のシステム」、お金とは「譲渡可能な債務(信用)」という風に言えるでしょう。現代のブロックチェーン(=分散台帳システム)とは暗号化された取引、すなわち記帳されたものをあらゆる人が持つという仕組みなわけですが、これはフェイがグローバル化したものだとも言えます。

お金には歴史的に、ボトムアップとトップダウンの2つの成り立ちがあります。ボトムアップは、もっとも交換可能性が高い、皆が欲しがるものがお金になったという流れです。このとき頂点にくるのは、金鉱物ですね。対するトップダウンの動きは、銀行が政府の権威と投資家の出資によって貨幣が発行されるという仕組みです。歴史的にみれば、お金の土台は初めは金鉱物といった資源から、国家の創造した信用に基づくものへと変化してきました。

グローバルカンパニーや個人が通貨を発行する時代がくる!?


しかし、将来的には国家が発行する貨幣の地位は下がり、グローバルカンパニーや個人の発行する”信用”が重視されるようになると思います。世界を国家-企業-紐帯(個人間のネットワーク)の3層でとらえた時、皆さんは国家の中に企業が、企業の中に紐帯があると思うかもしれません。しかし近年すでに国家と同レベルで企業群があり、それと同レベルで個人間のネットワークができています。世界のGDPを見ると、国家のGDPを超える勢いでウォールマートやトヨタなどがランクインしていますし、個人だってテイラースィフトやレディ・ガガのような世界的アーティストは、ものすごく支持を受けていますよね。こうした存在が、個々の持つ”信用”に基づいて通貨を発行することだって可能かもしれないのです。

今すでに生まれている無国籍通貨というのは、国家にとってはやっかいな存在だと思います。なぜなら無国籍通貨には自分たちが通貨の発行権がなく、自国通貨と対応させなければならないからです。例えばビットコインが今後どうなるかは分かりませんが、国家の信用力が下がれば無国籍通貨の価値は上がるわけです。国家が凋落するのかという視点で考えてみると、自ずと答えは出ると思います。

お金の本質とは何か


お金の本質は何と問われたとき、経済学的な視点でいえば「信用取引」ということになると思いますが、少し違う視点から捉えれば、僕は”数字”だと言えると思っています。数字は、世界中のあらゆる人が使える共通言語です。そして数字は、人の意識を吸着していく、アテンションを集めやすい存在だと思うんです。皆さんが、偏差値とか数字で表されたものが大好きなのに象徴されるように。今、お金は、実は信用という裏付けはないけれども、価値あるものだから大事にされているという存在に変化してきている気がします。そして、お金は実態から離れて、量的に拡大してきています。現に、2000-2006年の実体経済成長率が1.4倍なのに対して、金融経済は3倍くらいに膨れ上がっているのです。

そして、お金はその汎用性も拡大しています。今は、お金で月の土地だって角膜だって、裏口入学の権利だって買えます。お金で買っていいのか、という線引きはモラルの問題ですが、少なくともマネーにどんどん侵食されてきている。僕らが疲れてきているというのは、僕らは有機的な存在で、本当は数字に触れない方がいいけれど、どんどん数字に触れる時間が増えているからだと思うのです。

余談ですが、僕はこの数年間でいくつか会社を起こしてきて、様々な業界の間に立って事業をしてきました。その中で意識してきたのは、人間の本質的なものに関わる事業をするということです。確かにロボティクスとかIoTだとかAIだとか、そういったテクノロジーは今注目されていますけれど、バズワードといいますか、よくわからないけれどお金が集まったという状況なのではないでしょうか。それはそれでいいのですが、それよりもライブや劇団、アート、あるいはリトリートだったり、人間の本質的なものにもう少し入ってくるということのほうが僕は面白いんじゃないかと思って、そういった事業も手がけています。

タテからヨコ、信用から信頼へ

21世紀は、飢えや物不足に対応するものではなく、承認と尊厳を求める時代です。今、自分たちの生活で衣食住は満たされているし、車も家も余っていますよね。20世紀、まだ飢えや物不足に対応しなければならなかった時代には、それまで作り上げられてきた世界・システムをタテ社会で維持・運営する、マジョリティが重要な役割を果たしていましたが、もうその時代は終わっていると思います。

今は所属や尊敬といった、社会的欲求を求める時代。これからはヨコのつながりで新しいしくみを作り出そうとするマイノリティの思想が生きると思います。マイノリティは同心円状に分散していて、クラウドファンディングなどに象徴されるように、資源をヨコで融通しあうので、相互扶助の仕組みにつながり、それぞれの社会的欲求を満たすことに適しているのです。こうして市場・貨幣経済から、贈与・共有経済へと変化していくと思っています。そうなると価値を交換する手段は、お金だけではなくて、信用だったり個々人の間の貸借になりますよね。21世紀の貨幣は、ネットワークと信用の掛け算だと考えています。それが、一人一人の財産になるのです。

文:波多野あずさ

 

講師紹介

■山口揚平

ブルー・マーリン・パートナーズ株式会社代表取締役。
個人投資家応援サイト「シェアーズ」代表。

早稲田大学政治経済学部卒。東京大学大学院。トーマツコンサルティング、アーサーアンダーセン、デロイトトーマツコンサルティング、アビームM&Aコンサルティング シニア・ヴァイス・プレジデントを経て現職。
1999年より大手コンサルティング会社でM&Aに従事し、カネボウやダイエーなどの企業再生に携わった後、独立・起業した。企業の実態を可視化するサイト「シェアーズ」を運営し、証券会社や個人投資家に情報を提供、2010年に同事業を売却。コンサルティング会社をはじめ、複数の事業・会社を経営する傍ら、執筆・講演を行う。
慶應義塾高校講師。専門は貨幣論・情報化社会論。NHK「ニッポンのジレンマ」「僕らの新資本主義」にも出演。
大学生にベトナムで起業体験をしてもらうプロジェクトを実施するなど、様々な活動をしている。