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コラム

Meet Up OD×Tech~デジタル化は職場を活性化するか~報告レポート  登壇者 田原 真人

田原さんは、リモートODということを今度提唱されているので、まさに組織開発領域におけるテクノロジー活用の第一人者です。
いま、HRテックでデータ化しやすいところは、ほぼデータ化しており、残っているデータ化しにくいところはOD領域かもしれません。
しかし、OD領域もでもデジタル化することによっていろんなことできるし、対面じゃないとどうしてもできないと、思ってるその部分がリモートODという概念の中で、どのように進化していくのかがとても興味があります。
テクノロジーを使うことが、対面OD(組織開発)のの劣化した置き換えではなく、リモートだからできるODみたいなことを実践されていることについてお話いただければと思います。

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オンライン側とリアルが一緒にやるときって実はオンライン側からは、リアル側の反応が手に取りにくいんですよね。
これがオンラインの制約なんですけども、逆にみなさんがチャットに入っていただいて、書いていただけるとリアルではわからない心の声がオンライン側に届きます。
そうするとむしろ、リアルで話しているときよりも本音の声が、言葉でポンポンと入ってくるので分かったりするっていう面があります。

今日の僕の話って結構普通の人にとってはぶっ飛んでるかもしれないなーって思っているところもあり、途中から意味不明になって一人で突っ走っているっていう状況になったら、ちょっと自分としてはマズイと思っているので、チャットで「全然わからない」とか、「これはどういうことなんですか」みたいなことが、反応としてあるとそれを手掛かりにしながら話の階段を調整していきたいと思っています。
みなさんどうぞご協力お願いします。

オンラインコミュニティを創るに至った背景

本日はリモート組織開発というお話をさせていただきます。
ちょっと自己紹介を丁寧にさせていただくと、もともとは物理学科出身で、複雑系の科学っていうのを専攻していました。
その中で、細胞性粘菌という知る人ぞ知る生き物がいるんですけど、単細胞なのに飢餓状態になると信号を出し合って集合して合体して、多細胞のアメーバになる、アメーバって言うかナメクジみたいなのになるっていう生き物なんですね。
その生き物を研究しながら個体、単細胞アメーバっていう「私」というものと、合体したナメクジ状の「私」と言う、「小さな私」と「大きな私」というのが、どのように関係しているのかとか、これはまさに個人と組織がどのように関係しているのかということに興味をもっていたわけです。
そのような問題意識を背景に、細胞性粘菌っていう生き物に使って物理学的に還元したりと思って研究していました。
その後、予備校の講師になって、2005年ぐらいに物理ネット予備校というオンライン予備校を作って、自分の講義をすべて動画にしてネット配信する会社を作りました。
これは一年間に、400人ぐらいの受講生がいて、それを自分以外の一人と、つまり二人でまわす大変コスパの高いオンラインの教育ビジネスでした。
それをやりながら、動画ってすごいなって思いました。
今は、みんな飽きるから10分ぐらいのマイクロラーニングが主流になっていますが、それを知らなかったので、僕の授業って90分とか120分とかの授業がバンバンあるんですよね。
今の常識でいうと、そんな長いのみんな飽きちゃって見ないよって、言われますが、そのときのツールっていうのが二倍速とか四倍速再生がついてるツールだったんです。
動画のツールを作っている方が北海道の電気屋さんで、北海道の田舎に住んでいても都会と全く違わないような、むしろ、いいオンラインの教育を作るんだっていう志に燃えている電気屋さんでした。
その方が、マイペースの学習の方が効率的だっていう仮説を持ってたんです。
なので僕の授業が90分だとするとまず4倍速で全体をバーっと見る。
そうすると、だいたいこんな話だっていうのが分かって、そのあと2倍速でバーっと聞きながらわかんないところは止めて繰り返すみたいな感じで、その人の理解の速度に合わせて再生の仕方を変えるっていう風な形で物理を学べる仕組みを作ったんですね。
そうすると、すごい効果が上がって、分かってる話を先生が繰り返してるとイライラするとか、その時は動画で倍速で聞いてわかんないところ繰り返してた方がグングン学べるんで、僕の生徒たちは動画で学ぶって言う体制にすごくマッチしました。
2011年にマレーシアに引っ越してそれから完全リモートワークになりました。
そこで、反転授業の追求っていう主体的学びを追求する、フェイスブックグループをつくったり、オンラインの学びあいが始まりました。
そのオンラインの学びあいの中で、どんどんどんどん、個人個人とのつながり、コミュニティが生まれて、人がどんどん巻き込まれていって、最終的に4700人のグループになったんですね。
そのグループが自己組織化していくっていうプロセスを通して、オンラインでこんなことまでできるんだーっていう風な、驚きが自分の中でありました。

オンラインの可能性とリモート組織のできること

なんでそんなオンラインにコミットしてたのかというと、単純に外国に住むと制約が大きいんで、オンラインでどこまでできるんだろうって試してみたかったっていうことです。
ただ、その試した結果、他の人が気づいていないオンラインの可能性の結果的にたくさん気づくことができたっていう体験でした。
それでそのオンラインの繋がりからなんとか新しくワークショップを作って行こうと思って、与贈工房っていう最初は5人ぐらいで、今25人ぐらいになりましたが、リモート組織を立ち上げました。
そのリモート組織の伝播は、オンラインコミュニティの中での信頼関係からできるということでした。
メンバーで毎日話してるけど、考えてみれば会ったことがない、まだ一回しか対面で会ったことないなっていう人がたくさんいます。
自分の中であんまり対面で会ったこととかあるかないか、はもう気にしなくなっています。
日本やオーストラリアやシンガポールやマレーシアやスペインとかイギリスとかスイスとかそういうところから入って、リモート組織でズームでミーティングとか対話をしながらやっています。
じゃあそんな私たちが一体どんな仕事ができるのかっていうことなんですけども、基本的にやっぱり私たちはオンラインのスペシャリストっていうことで、いくしかないだろうと思っていて、人材育成のオンライン化支援とかオンラインの学習の支援とか、新規事業の創発のためのオンラインワークショップを企画運営とが事業ドメインになっています。
今までの一斉講義型だと、学習者のすべてが揃っていないと、効率よく学習ができないですよね。
入口と出口っていうのを設計して、入り口から出口まで連れていくっていうのが人材育成の効果だっていう風に定義してしまうと、そのすべてが揃っている人を揃えないと、その大量生産型の学習が成立しない。
大量生産型じゃない場合にはどうするかというと、それぞれの学習者が興味関心に基づいて、コンテンツから学び、かつ、自分の学びを確認しながら、相互に振り返りと気づき、フィードバックを参考にしてやっていくっていう学習型コミュニティ型の学びになります。

私は環境設定と人がどうやって学びあうのかなど、ラーニングデザインとかオンライン・ファシリテーションを強みとしてやっています。
今北九州の社会人育成のプログラムがあるのですが、新しくイノベーション起こしたいときに、新しい人たちが出会ってしかも関係性を作って、自分も扉を開けて、混ざり合っていくところからイノベーションって起こっていくと思うんです。
でもどうしてもリアルだと、身近な人っていうのは同じような考えを持ったりとか、そういうのがオンラインだとそれこそ国境を越えていろんな人を集めればいいんで、その中でもし関係性が作れれば、どんどんどんどんイノベーションが起こっていくはずなんですね。
私たちはオンラインで信頼をベースにした組織ができるぐらいまでの関係性って作れるよっていうのを存在証明として行っています。
いま、その可能性が見えているというように思ってます。

オンライン・ファシリテーションの欠点離脱をカバーするもの

オンライン・ファシリテーションが研ぎ澄まされたというのは具体的にどのようなことでしょうかと質問をいただいてるので、ちょっとそれについて答えます。
オンラインの最大の欠点というか苦手なところっていうのは、集中しなくてもいいことなんです。
リアルだとある意味教室に閉じ込められてるので、つまんなくても聞いたりしているもんです。
ところがオンラインだと、ラインを切ってしまえばいいだけなので、離脱率がすごく高いんですよね。
今アメリカでMOOCs(ムークス Massive Open Online Courses)っていうのがありますけども、これは大学の結構人気な教員がプログラムを組んでやってるいますが、90パーセント脱落するわけですよ。
だからほんとにオンラインの学びっていうのは、いかに脱落率を下げるのかっていうのがポイントです。
私たちも最初は6割脱落したり、7割脱落したりっていう残念な結果もありましたが、現在は脱落は1割以下です。
それはなぜかというと、前半に変容プロセスを入れるんですね。基本的に学びのコンテンツの振り返りとプロセスの振り返りっていう二重の振り返りで、入れていって、経験学習サイクルをまわすようなラーニングデザインにすることが多いです。
そのコンテンツの振り返りとプロセスの振り返りって、まず、私たちの前提として受動的な学習者の割合が高いというところからスタートします。
そうすると実際なんかやってみましょうっていうように、経験学習サイクルをまわすために課題を出すと、できる人はやって、できない人はなんか劣等感感じるみたいなそういう思いができるんですよね。
それを放置すると劣等感を感じる人がどんどん脱落していって、比較的得意で優越感持って学べる少数だけ残るっていうことが起こってしまう。
でもそれをプロセスの振り返りをしながら、自分が学べるために不完全さを認めながら、どんどん試して実験していこうというマインドセットを設定して、それがどういうフィードバックに支えられるかっていうセッティングをするわけです。
支えあい学びあいがどのように起こっているかっていうのが、プロセスの振り返りでどんどん出していく。
そうすると途中からそういう序列化という概念に適合するような学びではなくて、それぞれが自分を表現しながら学んでいくっていうところに二週間ぐらいで変換していく、マインドセットの変換を前半やって、マインドセットが変換した人が共創的に学びを進めていくって言う風に後半は流れていくっていうようなラーニングデザインをしています。
それがどん進むと、オンラインだと、逆にですね、足りない人が集まってるので、ものすごいラーニングがまわってくし、その構造を作るって言うのが、実はAIにも非常に有効的なんじゃないかなってと思ってます。

リモート組織で重要なのは内発的動機

私たちはそういう脱落しやすいオンライン講座の特性と同じようにリモート組織っていうのはトップダウンの管理とか基本できないんです。
なので、管理ゼロしか無理。
隠しカメラ付きリモートワーク装置っていうのが発表されてて恐ろしいですよね。
上に監視カメラみたいなのがあって、どれくらい働いてるかみたいな測れるようになってるらしいんですけど、そういうのやるとリモートワークの強みが全部なくなってしまうと思っています。
なので、基本的に管理ゼロでしかやれないという前提にたって、じゃあどうするかっていったら、それぞれの関心とかニーズとかそういう本人たちの内発的な動機っていうのを組み合わせて組織を作っていくということです。
だからこそ、その制約の中でどんな組織を作れるのかっていう工夫をおもいっきりやるっていう状況でもあります。

リモートの強みは多様性です。
住んでる場所も、年齢の層も、働き方の対応も。
世界縮図であるような状況って言うのが見えてくる。
そうすると、問題も出てきて、それを解決できるのかっていうのが、組織の問題として浮かびあがってきます。
でも、それはまさに、私たちの抱えている社会の壁を解決する方法を体験しているっていうことに繋がります。
リモートだと、そのコミュニケーションがテキストベースになったりして、こじれていくこともあるので、とにかく話をする。
対話、対話、対話、対話でお互いの特性の違いであるとか背景の違いっていうのを知り合っていくっていうことが本当に大事だなと思ってます。
状況がどんどんどんどん内的にも外的にも変わっていくので、意思決定のエネルギーをなるべく使わないようにして、とりあえず決めてやってみる。
三か月後に再検討するっていう形でぐるぐるまわしていくっていう感じにしています。

すべての命の存在が大切にされ、誰もが自分を十分に生きられる社会っていうのを実現をしたいと思っています。
その中で私たちができることっていうのは、自分たちを実験台にしながら、オンラインの社会実験をしまくるということをミッションとして、やっています。
古いパラダイムから自己不一致を起こした人たちがそのパラダイムから飛び降りて、何か実践を始めると。
そしてその実践コミュニティはどんどんどんどんできて、お互いが繋がりあって、新しい物語が生まれていって、古いパラダイムもまた合流する、というのがパラダイムシフトの思考だと思います。
たぶん、今の時代の新しい実践コミュニティというものの多くはオンラインコミュニティになってくるんじゃないか。
そしたらそのコミュニティが合流していくようなコミュニケーションの技術って言うのが非常にパラダイムシフトには重要になってくると思っています。
それから、古いパラダイムと新しいパラダイムがどうやって混じりあっていくのかっていうことが非常に重要になってくるだろうっていう風に考えています。

新しいテクノロジーを活用する:Zoom、Slack

Zoomというテクノロジーのいいところは、まず、コミュケーションも簡単だし、ワークショップにも使える。
今500人までは入れるんですね、500人まで入っても、接続は非常に安定してるので、今までだったら、例えばそういう人数でやるとしたら接続するのにも膨大な人数の労力が必要でした。
ところが、500人規模でもほぼあんまりトラブルなくできてしまっているので、大規模なイベントも含めて、ITリテラシーの低い人たちが参加するオンラインという圧倒的にやりやすかったりもします。
もう一つは録画がワンクリックでできるんですね。
そうするとミーティングして録画して、簡単にできる、時間があわない人とのコミュニケーション時間差コミュニケーションも非常に簡単になりました。
一方Slackも事務回りで使っています。
その中で、日常的にいろんなコミュニケーションが日々日々起こっていて、ミーティングであったりとかオフサイトミーティング的な会話って言うのが日常的になっていうのが状況です。

これがもしオンラインで今のプロセスが可能なのであれば、すごい可能性が広がります。
相互インタビュー、お互いがそもそも最初から背景の物語の思いを聞き合ってると信念概念なった時に、彼はそういう思いが背景にあったからって気づきやすいんで。
相互インタビューをやって、録画して動画をSlackに共有してっていう風にする。
日常的に組織の中でやって動画にして処理するっていうことを行っていたりします。
時間に参加できない会話の録画も全体共有できるので、時間が合わないところで話し合って、こんな話したよっていう感じでSlackにあげるとそれを動画を見た人がそこにコメントをつける、こう思ったよ、みたいな感じで時間差の対応ができる。
そういうの会話の頻度を高めるのをリアルでやろうと思ったら、とてもじゃないけどとても大変です。
オンラインだと対応することができる。
もしかしたらちょっとこの取り組みご存じの方もいるかもしれないんですけど、中原淳さんの400人規模のオンライン読書会の運営をおこないました。
アプリシエイティブ・インクワイアリ(AI)的なことをおこなったり、講評を受けては、振り返りをそれぞれコメントを書く。
本当に多様な世界のとらえかたっていうのがあるんだなーっていうのを体験しながら自分で振り返る。これもオンラインならではの学びという風に思っています。
世界の縮図であるという自覚を持ち、とにかく対話、対話、対話、対話というような日々送っていて、決めるミーティングのほかにオンラインシェアオフィスというようなURLで固定されている場所がありまして、Slackで話してちょっと寿司屋で喋ろうかっていうように別スレッドに移る。

対面の世界から見ているとオンラインって劣化してるように見えると思うんですよ。
対面でしかできないあの空気感を分からないだろうと。握手できない、一緒にご飯も食べられない。
でもオンラインで、確かにそんなことはできないけど、逆にオンラインならではのこともでてくると思います。たとえば、Web会議だと自分の姿も画面上にでたりしますよね。
そのことが、自分を客体化することにつながったり、いままで見えてこなかったことが見えてきたりする。
オンラインならではの、組織開発がこれからうまく表現できればいいと思っています。

■田原 真人

◆自己組織化ファシリテーター
◆オンライン教育プロデューサー
与贈工房 主宰 
Zoom革命 代表
◆国際ファシリテーターズ協会 日本支部理事
◆Flipped Learning Global Initiative アンバサダー
◆インフィニティ国際学院 アドバイザー 
◆「反転授業の研究」代表
◆Weconnect Japanメンバー   
◆「フィズヨビ」代表

早稲田大学理工学研究科博士課程で生命現象の自己組織化について研究後、河合塾の物理講師になり、2005年に物理ネット予備校(フィズヨビ)を立ち上げる。
反転授業との出会いをきっかけに、ピラミッド型の社会システムや教育システムに疑問を抱くようになる。
自らの学び場を自分で創るために「反転授業の研究」を立ち上げる。
そこで対話を通した自己組織化と出会ったことで、学生時代に学んだことを生かせるようになった。
オンラインコミュニティに自己組織化が起こり、集合知→価値創造→価値提供の循環を生み出せるようになった。
その体験を分かち合うために自己組織ファシリテーターとしての活動を始める。
現在は、完全リモートの生命型組織「与贈工房」で学びや組織のパラダイムシフトに取り組みながら、約400人の仲間とともに「自己組織化する学校」プロジェクトに取り組んでいる。