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コラム

テクノロジーが生み出す最新OD/HRの世界(ゲスト*Tech Wave代表・株式会社エクサウィザース AI新聞 編集長 湯川鶴章氏)

2018/2/14 AS研究会
ゲスト:湯川鶴章氏(Tech Wave代表・株式会社エクサウィザース AI新聞 編集長)

今回はこれからのHRテックがどうなっていくのか、ITジャーナリストとして活躍しているTech Wave代表湯川鶴章氏にお越しいただいた。
湯川氏は昨年12月から、AIの利活用で様々な社会課題の解決を目指す、株式会社エクサウィザーズにジョインしており、最先端のテクノロジーについて企業内外両方の視点を持つ存在だ。
改めてAIとは何なのか、HRテックをはじめAIによって変化しているビジネスとはどのようなものかについて教えていただくとともに、世の中がどのように変化していくかを考える場となった。

AI(人工知能)の進化でここまでできるようになる

AI(人工知能)採用とAIコーチング

私が昨年加わったエクサウィザーズという会社は、主に介護の世界をAIやHRのテクノロジーを通じて変革させていこうとしている会社です。
僕自身はもともと、ITジャーナリストとして企業に所属せず業界の動向を見てきたわけですが、テクノロジーを急上昇させている企業の最前線を、どうしても内部から見てみたい、そんな誘惑に負けて入社することになりました。
エクサウィザーズでは、これから高齢化社会がさらに加速する中、増え続ける被介護者をAIで支え続け、4割しかいない働き手側もHRテックで支えていこうとしています。
エクサウィザーズの考え方は、AIを使って今までのものを進化させるのではなく「AIをベースにして全てを作り直す」というものなんです。
すごく壮大なことを考えているようにも思いますが、AIの仕組みをベースに、組織などを全部AIで解析しやすいように変えるくらいのことが必要だ、と考えている会社です。

例えばどんなことをしているかというと、ユマニチュードというフランスの優れた介護手法を幅広い人に早く習得してもらえるように、「AIコーチング」という手法を開発しています。
ユマニチュードは通常、1年ぐらいセミナーを受けて取得するものらしく、1回の講座も3時間位かかるんです。
しかも習得後も上手・下手の差は出ますよね。
そこで、上手い人の映像を撮影し、AIで解析して、うまい人が何がうまいのかということを分析し、上達が必要な人に少しでも早くわかりやすくコーチしようとしているんです。
また、売れる営業マンの行動をAIで解析し、新人や伸び悩む人たちにコーチングするということも構想中です。
こうしたテクノロジーはもちろん、今後あらゆる業界で生かせるものだと思います。
HRテックについては主に2つの構想があります。
1つは人事採用において、その会社に合った人を採用するのにAIを使ってもらうこと、そしてAIコーチングで内部の人の成長を促すことです。
それ以外も計画していることがたくさんありますが、とにかくありとあらゆるものをデータ化することによって、AIの技術が活かせる世の中になると思いますので、そういったことにトライしているということです。

AI(人工知能)とは

ところで、AIとはどういうものなのか、皆さんはご存知でしょうか。
AIとは要するに計算式、予測モデルなんです。
「原因(入力データ)」と「結果(出力データ)」の2つのデータが大量に揃えば「Aのケース(入力)の場合、Bになる(出力)」という予測モデルが出来上がります。
例えば、気温のデータとアイスクリームの売り上げのデータを大量に用意できたとします。
すると「何℃気温が上がると、アイスクリームが何個多く売れる」というモデルが成り立つわけです。
なので、明日の予想気温を入力すると、だいたいどのくらいのアイスが売れるようになるのか、予測ができるわけですね。
今では入力と出力のデータさえ大量に揃えば、予測モデルは勝手にコンピュータが作ってくれるような時代になってきています。
家に帰る前にデータをコンピュータに入力すれば、翌朝には計算式が出てくるという状態なんです。
もはやデータさえあれば、AIに作れるという時代になっています。

これらのモデルが応用されて、あらゆる分野で活かされているわけです。例えば、ローンの貸倒予測。
持ち家かどうか、収入はどのくらいかなど、1人の人間にはたくさんのデータがありますが、今ではどの項目が重要なのか、コンピュータが勝手に重み付けをしてくれるんですね。
人間でもどの項目が重要なのかはよくわからないじゃないですか。
でもAIによって重み付けをすることが可能なわけですね。
すると、ある人にまつわるデータを入力すれば「この人は何%の確率でローンを返済してくれます」と予測が出てきたりします。
そんな時代なんです。

データをより早く、多く集められた者が勝つ時代

AIが普及してきたことによって、今は「ビジネスのカンブリア紀」とも呼ばれています。
生物学的なカンブリア紀は、生物の数が爆発的に増えた時代ですが、これと同じように、今後はAIの到来によって初めてできるような、新たなビジネスが様々に出てくると言われています。

AI(人工知能)を普及させたディープラーニング

この流れに一役買ったのは、6-7年ほど前にできた”ディープランニング”と呼ばれる計算式です。
そこからAI研究所やGoogleのような企業が、AIにまつわる研究開発に特に力を入れ始めました。
こうした流れによって、2015年くらいにはいろんなサービスが登場し、昨年2017年くらいからはアメリカではカンブリア的爆発が起こってきています。
そして、今では予測モデルを作る計算式そのものが無料で公開されていたりするんですね。
ですから、データさえ持っていれば既存の業界でもAIを利用できるようになっているんです。
今年からはそうした業界で、AIを応用したようなサービスの戦いが始まっていますね。2020年くらいにはローカルに近い場所での戦いが始まると思います。このようにAI革命はこうしたロードマップで起こっていくと思われます。

先手必勝

こうしてみると、AIの時代には、”正のスパイラル”に入れるか入れないかが明暗を分けます。
ポイントは、解析に必要なデータが集められるかどうか。
データが集まると、AIでの解析によってサービスが急激に向上します。
するとユーザーがどんどん集結し、一気に市場の流れが変わります。
出遅れた他社にとっては、参入障壁が一気に上がるんです。
つまり、先手必勝だということですね。
大手企業・機関が一見「なぜ買収したのか」というような会社・サービスを買うことがありますが、これもいち早くデータが欲しいからというケースがあるんですね。

AI(人工知能)による人材予測

HRテックの世界ではどういうことが起きてくるか。
例えば採用コンサルティングのような会社では、入社時のテストデータを入れると、その人の10年後の給料が90%の確率で予測できるようになってきています。
すると、そのテストでその会社にとってその人が良い人材かどうか、入社前の段階でわかってしまうんですね。
これは実にエグいことです。
次何がほしいのかというと、顧客企業の人事データだと思います。
相手の人事データは、なかなか持てるものではありませんが、これが持てるとそのテストによって「この人は御社のこの部署に向いてます」といったコンサルテーションができますからね。

AI(人工知能)がもたらす世界の変化

こうしてAIによってどう世界が進化していくのか、様々な予測があります。
自動車業界ではUberやカーシェアリングサービスが伸びていますが、中には全世界を揺るがすような厳しい予測もあります。
アマゾン、グーグル、アップルといった大手が業界に参入し、アメリカが規制緩和をすると、コスト削減のために電気自動車が導入されて、サービスが向上していきます。
それからどんどん自家用車の必要性がなくなって、自動運転技術が発達すればそのうち無人タクシーを呼ぶという流れになる。
アメリカでは2030年には自家用車がなくなるんじゃないかという予測をする人までいるんですね。最大の理由はコストです。
シェアリングサービスで用が済めば車を購入しなくてよい分、コストが数十分の一になってしまいますからね。
また、AIの恐るべきところは、データが集まると変化が加速度的になるということです。
今はUberで車を呼んでも30分かかるから、いまいち使えないと言う人もいますが、データが集まってきたり参入者が増えてくると、スパイラル式に便利になるわけです。
こうした変化によって石油の需要が急激に減り、価格が下落して、あまりにも急速な変化になれば国際政治が不安定になるかもしれない、とも言われているんです。
AI時代はすべてスパイラルでものごとが起きますから、こんな過激な予測もあるんです。

それでも、AIを活かすのであれば大きい絵を描かないと意味がないんです。例えば医療の業界。今ウェアラブルデバイスを持って健康状態を図るという機能が増えていますが、例えば心拍、体温、脳波など、全部バラバラにとっていますよね。
でもこれからは、とりうるデータは全部取って最適化していく必要がある。
それができれば、予防医療や医療保険などを包括的に変えていけるような、大胆な革命が起こせるわけです。
これは国は動けないでしょうから、まずは民間がやるでしょうね。
AIをやる会社の多くはこうして大きな構想を持っていると思います。

AI(人工知能)によって人間の働き方、生き方はどう変わるか

ただし、AIが全てにおいて万能かというと、必ずしもそうではないかもしれません。
ご説明したように、AIは過去のデータの統計処理によってできている予測モデルですから、今後あらゆる分野で同時多発的に変化が起こり続けると、5年先のような未来については対応していけるとは限りません。
どちらかというと直近、近未来のことの予測に向いていると今は思います。

世界中で同時多発的な変化が起き続けるわけですから、今後我々はますます勉強し続けなければいけない時代ですよね。
一度社会人になっても、大学院などで学ぶ機会を定期的に持つ人は増えていくと思います。
AIが「これからこんな大学院にいってはどうか」というキャリアコンサルタント的なこともしてくれる時代になるかもしれない、という人もいます。
あるいは、その会社のその時点の内部データだけでなく、競合の最新の状態や創業家の特徴だとかも含めた、あらゆるデータを踏まえたAI、HRテックを作るのが究極の目標という人もいます。

これからの人間の働き方

こうしてAIによって環境が変化していった先に、人間の働き方、生き方はどのように変わるんでしょうか。
僕は、これまでにあった「仕事はがんばらなきゃいけないもの」「嫌な仕事もやってみることで成長するものがある」みたいな価値観は変化していって、これからは「好きなことをやっていいんじゃない」という風潮が主流になると思います。
なぜなら、あと30年もすると、AIとロボットが我々の仕事のほとんどをやってくれるようになるはずだからです。AIに代替される仕事が増えていくのは間違いがなくて、その分社会的な富は増えます。増えてきたら必要以上に我々が豊かになっていきますね。
するとこれからは勤勉は美徳じゃない時代になると言われているんです。
嫌なこともやらなきゃいけないという価値観は古くなっていって、好きなことだけしたい、やなことはしたくないという意見が通るようになる。
すると価値観の衝突が起きていくと思います。

AI(人工知能)時代への過渡期

また、AI がなんでもやってくれるまでの過渡期はどうなるかという問題があります。
将来的にベーシックインカムといって、政府がすべての人に必要最低限の生活を保証できるような資金を無条件で支給してくれる、という制度ができるとも言われていますが、それまではお金を持つ者と持たない者の格差が相当広がるでしょうね。
お金を持つものは、AIを使いこなす側の人だと思います。

僕はこうした過渡期の話が出ると、幕末に活躍した人々の話をします。
新たな時代を作っていった人たちは、実は皆剣の達人なんですよね。
江戸時代は武力的な力が必要でしたが、新しい時代はビジネスの時代。
その過渡期をくぐり抜けるには、両方のスキルを持っていないと殺されてしまうからなんですよね。
だから両方のスキルを持つ必要があったのだと思います。
我々もまた価値観の変革期に来ているので、まだまだしっかりお金を稼ぐ力も必要です。
それと、今まで必要とされていた合理的判断、クリティカルシンキングといわれるものも、AIの方が確実に合理的な判断ができるので、将来的には要らなくなるといわれています。
とはいえ、あと5年から10年は必要だと思いますから、左脳的な部分も右脳的な部分も備え持つ必要が、我々にはあると思いますね。

■湯川 鶴章(ゆかわ つるあき)
AI新聞(=株式会社エクサウィザース オウンドメディア)編集長。

米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。
サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。
シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。
通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。
時事通信編集委員を経て2010年独立。
2017年12月から現職。
主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。
趣味はヨガと瞑想。
妻が美人なのが自慢。