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【イベントレポート①】2030 私たちの世界・社会で必要なこと ~学校教育と企業内教育の未来の向かう先〜

 

4月25日に開催しましたイベント、
2030 私たちの世界・社会で必要なこと~学校教育と企業内教育のむかう先~
の報告レポートです!

テクノロジーの進化と共に激しく変化する現代において、社会で求められる人物像も大きく変化してきています。私たちラーニングデザインセンターが16年間携わってきた企業内教育の現場はもとより、学校教育の現場でもOECDが提示しているこれからの時代を生き抜く力が注目され始めました。

今回の企画は、企業内教育に携わる気鋭の担当者と、学校教育の現場の変容を俯瞰的かつ躍動感をもって知る教育関係者をむかえ、2030年の社会をWell-Beingにする人材像について語り合う場をセットしました。

レポートでは、登壇者ごとに分けてお伝えします。

OECD日本イノベーション教育ネットワーク
事務局長
小村俊平氏

 

教育はどんな方向に向かっているのか?

私は幾つかの仕事をしておりまして、企業の研究開発マネジャー、高校のアドバイザー、大学の学長補佐などの仕事に携わっています。その中でも本日は、OECDや文部科学省と共同研究を推進する研究プロジェクトチームであるOECD日本イノベーション教育ネットワークの事務局長という立場でお話をさせていただきたいと思います。本日の登壇者のうち私の役割は、おそらく企業の取り組みと教育現場をつなぐことではないかと思いますので、まずは今の教育がどんな方向に向かっているのかということからお話ししていきます。

 

学習指導要領や大学入試の変化

 

昨今の新聞やニュースでは、「教育が変わる」という話題が何度も何度も取り上げられてきました。2020年を境にして、学習指導要領・教科書が大きく変わります。そのキーワードは「アクティブラーニング」、日本語にすると「主体的・対話的で深い学び」と言われるものです。これは先生の話を一方的に聞く授業を減らし、皆で話し合いながら学ぶような授業の方法の違いだけではなく、「自分で考える」「自分の意見を持つ」「他者と対話をしながら新しいものを生み出す」といったことを大事にするという考え方が背景にあります。

 

そして、大学入試も変化します。かつて共通一次やセンター試験と呼ばれたものが、大学入学共通テストになります。特徴的なのは、マークシートだけではなく、国語と数学で記述式の問題が導入されたり、英語が「読み・書き」だけでなく「読み・書き・聞く・話す」の4技能になり、民間検定が活用されたりすることです。

そして、最近はプログラミングやデータサイエンス、AI人材といった言葉が話題ですが、2024年から大学入試の教科の1つとして教科「情報」が加わる、小学校でプログラミング教育が始まる等、様々な変化があります。

 

 

今の教育は遅れているのか?

なぜ、教育が大きく変わるのか。それは、社会が大きく変わっているからです。デジタル化、グローバル化、人生100年時代、高齢化、様々な変化が起こっています。そして、教育が変化するのは日本だけではありません。世界中です。先進国だけでなく、あらゆる国が教育を重要テーマとして捉え、教育が変わらなければならない、変えていこうと議論しています。

私自身も様々な国の方々と教育について話す機会があります。しかし、日本で疑問に思うのは、今の教育が悪者になる、劣っているという話題が非常に多いことです。「教育が間違っている」「学校が遅れている」「教員が劣っている」「だから教育が変わらなければならない」という話をよく耳にします。本当にそうなのか?と思います。

 

 

学校には素晴らしい点が数多くあり、他にはない可能性があります。たとえば、学校は未来と社会の多様性の交差点であると言えます。中学や高校には、22世紀まで生きるかもしれない人たちが集まっています。まさに「未来からの留学生」が集まるのが学校です。

 

学校とは、この会場にいる私たちよりもずっと未来まで生きる人たちが集まる場所であり、その未来の可能性を引き出す役割を担っています。企業のような短期だけではなくて、中長期、2030年、2050年という未来を自然に考えられる場所です。すべての生徒はデジタルネイティブであり、AIネイティブです。そのことに気づいていないのは、むしろ大人かもしれません。

ですから、学校にこそ未来がある、私たちが目指すべき姿や描きたい姿を考える場だと考えてみてはいかがでしょうか。「学校に頑張ってほしい」というだけではなく、みんなで協力しながら作っていきましょう、というのが私の基本的なスタンスです。

 

 

日本はトップクラス? 2030年の教育はどうあるべきか

OECDが行っているPISAという学力調査があります。これは15歳という義務教育終了時に行われるものであり、読解力や数学リテラシー、科学的リテラシーといった学力を測定します。この調査で日本は常にトップランクです。決して他国に劣ってはいません。

 

また、OECDでは、Education2030という2030年の教育はどうあるべきかを考えるプロジェクトを進めています。その第1フェーズでは、2030年以降の社会で活躍するためには、どんな資質や能力を身に着けることが大事なのかを30ヵ国以上の国々が集まり、議論を繰り返してきました。

 

 

これまで各国が議論するなかで大切にしていこうと合意したのが、ウェルビーイング(健やかさ・幸福度)」=「皆(自分だけでなく社会として)が良く生きる」という教育目標です。そして、ウェルビーイングに必要な変革コンピテンシーも議論しています。「新たな価値を創造する力」「責任ある行動をとる力」「対立やジレンマを克服する力」という3つの力です。こうしたものが、これからの教育では大事になるだろうと考えています。

そして、これらのコンピテンシーを発揮していくために必要と言われるのが、「Agencyエージェンシー」と呼ばれる、「責任を持って社会に関わり、社会を変えていく力」です。これまで20世紀の教育では、学校が育てるべき力は「言われたことを頑張る力」だったかもしれません。21世紀はそうではなく、皆の幸せ、皆のウェルビーイングのために新しいルールを作っていくことが大切だろうということです。

 

 

これからの教育は、「段階」ではなく「循環」

そしてもう1つ重要なのが、AARサイクルです。これは見通し(Anticipation)、行動(Action)、振り返り(Reflection)の略です。これまでの教育は、ステップバイステップ、つまり低いところから高いところへと階段を昇っていくとその先にすごいものがある、答えがあるというようなものでした。

 

しかし、これからはステップ1から3、1から5へと一気に進んでもよい、ステップ5から始めて1に戻ってもよい。ステップを順番に踏んでいくよりも、ぐるぐる循環が回っていくことこそが重要ではないかということです。このようなことを様々な人たちと議論しています。

 

高校生の活動 マレーシアで盆踊り

高校生の具体な取り組みは、これから郁文館グローバル高校の土屋先生が話してくれますが、1点だけ「プロジェクト・ベースド・ラーニング(PBL)」について紹介します。PBLとは、高校生が社会の様々な課題の解決に取り組むことを通じて学んでいくというものです。「水を綺麗にしたい」「地域の過疎化を解決したい」など、様々な思いをもった高校生が自らのプロジェクトに挑んでいます。これを日本だけではなくて、岡山とマレーシア、広島とハワイ、福井とシンガポールなど、日本と海外のパートナーが一緒に取り組むのが私たちのPBLの特徴です。

 

去年面白かったのは、岡山の高校2年生の女子生徒が、「姉妹都市のマレーシアのコタバル市で盆踊りをやりたいです」と、コタバル市の市長に手紙を送ったことです。コタバル市はイスラム文化であり、盆踊りどころか、人前で女の子が踊ることも禁止なのですが、情熱が地域を動かしたんですね。

 

 

可能性を秘めているのは、進学校だけではない 高校生は「未来からの留学生」

こういった話をすると、それは学力が高い進学校だからでしょうと思われるかもしれません。必ずしもそうではありません。私が審査員として関わらせていただいているソーシャルビジネスプロジェクト(SBP)では、活躍しているのは専門高校、工業高校、農業高校などの様々な生徒たちです。本当に面白い生徒がいます。

 

たとえば、オリジナルのタイ焼き器を作って中国や韓国に販売している生徒がいます。豊田織機などと連携し、数十万円もする機械を商品化したのです。大人の知らないところで生徒たちはすごいことをやってのけます。それに気が付かないのは大人たちの力不足かもしれません。

 

現在の高校生は、彼ら彼女らが今後活躍する未来から、私たちの世界に留学してきていると考えてみたらどうでしょうか?彼らの思考と行動様式は、未来のそれかもしれません。我々は、逆にもっと彼らから学ぶことは多いのです。ということを申し上げて、私からの話題提供を終わりにさせて頂きたいと思います。